大阪市・府3月議会、独法化の予算(案)が明らかに。これでは危機対応はできない!
この2月、3月の大阪市と府の議会は、都構想がらみの案件がめじろおしです。
環科研と公衛研の統合・独立行政法人化については、4月法人化を前提にした予算案が議会に提示されます。(大阪市議会は議案第50号)
研究所の統合・独法化の議案は、9-10月の議会ですべて可決されました。
しかし、議会も無条件に可決したわけではありません。
市民の反対の声を受けて、議会が、さまざまな「約束」を府市から引き出しています。それから4か月がたちましたが、この「約束」はどうなったのか?予算の中身とともに確認が必要です。
この「約束」については、次の記事に回し、今回は予算案の中身を見てみます。
「平成29年度予算案」からわかる問題点ー22億と総額は大きいが
予算案は大阪市・大阪府とも事前に公表してますが、なぜか詳細は大阪府側にしか出ていないので、2月17日に公表された大阪府の資料から読み解きます。
(資料はこちらの「主要事業」http://www.pref.osaka.lg.jp/hodo/index.php?site=fumin&pageId=26725 )
資料では、<平成29年4月に設立する「地方独立行政法人大阪健康安全基盤研究所」において「西日本の中核的な地方衛生研究所」に相応しい機能を備えることができるよう、業務に要する運営費を交付>するとあります。
資料をまとめるとこんな感じです。
〔予算総額〕 22億7千万円
〔内訳〕 人件費(13億円)、事業費(8億6千万円)、「機能強化」(8千万)
〔財源内訳〕特定財源(1億8千万円)、大阪府(13億1千万円)、大阪市(7億8千万円)
※「特定財源」とは、国事業で府市から法人へ委託となる予算(感染症対策など)を指します。
〔運営交付金の内訳〕
表のとおり、それぞれ(A)人件費、(B)退職手当、(C)物件費ほか、(D)機能強化と分類されてます。
(A)~(C)までは、府の方が多いのは、現在の府(公衛研)と市(環科研の衛生部分)の職員数や事業規模に比例しています。
(D)の機能強化は、「疫学調査」「疫学解析」「精度管理」という新たな組織を立ち上げる費用とされますが、ここはなぜか府市が同額です。
この資料ではわからない問題点があるので、ここで、大阪府の細かい予算資料を見ていきます。(大阪府は、予算編成過程を公表していて、財政当局の指摘事項も掲載されている。)
(大阪府の予算編成過程の公表資料: http://www.pref.osaka.lg.jp/yosan/cover/index.php?year=2017&acc=1&form=01&proc=6&ykst=2&bizcd=20170544&seq=1 )
ここでは、財政当局の指摘事項は、運営交付金の内訳の(A)人件費、(C)物件費ほかについて、次のような指摘をしています。
○職員人件費分は現員ベースで措置。
=人件費は府職員の人件費平均額×職員数で積み上げただけ
○その他運営費は決算等を踏まえ所要額を精査。
○今後の運営費負担金の収支計画について早期に財政課に示すこと。(市との負担割合の整理も含む。)
=今後の府市の負担割合もまったく白紙状態
(D)の「機能強化」については、財政当局は「○事業実施にあたっては具体的な事業計画を策定の上、財政課に報告すること。」と指摘していますが、、すごいことです。具体的な事業計画もなしに予算を認めたのです!
普通は細目なしの予算が通るなどあり得ないですよ。
それなのに、予算は「府市同額」です。今後、大阪府の本来の広域の役割についても、大阪市が財政負担していくことが目に見えていますね。
「機能強化推進事業」の概要で出てきたもの・・
2月17日の大阪府の予算資料「主要事業」で、やっと、以下のように「機能強化推進事業」の概要が出てきました。
===
① 健康危機管理を担う部門(疫学調査チーム)の新設
《事業費:40,662 千円》
公衆衛生・健康危機情報の収集・評価を行うため、新たに医師及び専任の研究員を配置
[医師2名+研究職2名(獣医師)]
② 疫学解析研究を担う部門の新設
《事業費:19,553 千円》
疾病の発生原因や流行状況を詳細に解析する研究を行うため、新たに医師及び専任の研究員を配置
[医師1名+研究職1名(微生物または理化学系)]
③ 試験検査に係る信頼性の確保を担う部門の新設
《事業費:19,967 千円》
検査部門等と独立した新たな組織として国際基準に則った信頼性確保・保証業 務に専任する研究員を配置
[研究職2名(微生物系+理化学系)+検査補助員4名]
④ 府内中核市に対する支援体制の構築
《既存体制により対応》
⑤学術分野・産業界への支援・連携体制の確立
《既存体制により対応》
===
4月からの法人の組織図・各部署の人員については未だに示されていません。
今回、①②については、「新たに医師及び専任の研究員を配置」ということですが、これは「今はいないので、採用する」という意味です(現に医師がいないので)。
しかし採用すれば機能するものではありません。疫学調査や疫学解析の機能は、人の経験を積み重ねた能力によるものです。
③④⑤については、「新たに」ではなく、「専任の研究員を配置」とあります。これは、人を増やすのではなく、既存の組織から人を引き抜くということでしょうか??
ただでさえ欠員だらけの検査、研究部門から人を抜いて、従来の感染症、食中毒、食品、医薬品、水道や生活用品などの検査体制が維持できるのか、しっかりと検証が必要です。
「疫学調査チーム」の実効性は?
機能強化の①についてもう少し詳しく。
今の環科研と公衛研には疫学調査の専門家はいませんので、国立感染症研究所のFETP(実地疫学専門家養成コース)に研修に行って、専門家を育てないといけません。2年間の派遣です。来年はもう無理なので、再来年から受講するとして、少なくとも、チームとして機能するのは「平成32年度」からとなります。
(国立感染研HP 平成29年度 FETP研修員募集要項(国・自治体職員以外) )
派遣中は、感染研の非常勤職員として給与等が支給されるようですので、予算計上している意味は不明です。そもそも感染研が自治体以外から受け入れしてくれるかもわかりません。
また、研修内容としては、実際の感染症の集団発生や新型感染症の事例での「実地疫学調査」を実践し、その対応を身に着けることがメインになります。しかし、感染症法により実地疫学調査は公務員でないとできません。独法化したら、「疫学調査チーム」を作っても、「実地」で活かせないのです。これも、府市議会でも明らかになりました。こんな不合理なことはありません。
しかし、議会では、法人職員が「現場に同行」する具体的な仕組みづくりを検討すると約束しています。
法人職員には、法律上、感染症の患者や接触者への聞き取りを行う権限がありません。一体、どんな仕組みづくりができるのか、法人化までに明確にしてもらう必要があります。法人化してから、「やっぱりできません」では済みません。
(9月27日大阪市会民生保健委員会での答弁)
●新研究所では、チームの職員が現場に同行し、保健所が行う疫学調査が迅速かつ的確に行えるよう客観的な視点からアドバイスを行うなど、大阪府域全体の疫学調査機能の向上を図れるよう具体的な仕組みづくりについて検討していく(9/27 委員会)
一番大事な「健康危機事象発生時の体制」は??
最大の問題は、新型インフルエンザなど健康危機事象発生時の想定がされていないことです。
財政当局の査定内容で示されたように、
○人件費は現員ベース
○事業費は決算ベース
でしかなく、つまり、平常時の想定でしか予算査定されていないのです。こんなのお話になりません!
健康危機事象発生時(新型インフルエンザでなくても、これまでも数年おきに起きてきたノロ集団発生や、麻疹流行、雪印食中毒事件、冷凍ギョーザ事件などなど)では、大量の検査にあたることになるため、試薬等の予算もすぐになくなり、行政からの追加措置が迅速にあることで対応できていました。
また、緊急時の検査等は、深夜までの時間外勤務や、土日の対応もあります。人件費も通常では対応できません。
こんな事象は、数年おきにあるのです。
しかし、予算はあくまで平常時ベースしか査定されていません。すぐに予算不足になるような予算組んで、どうするんですか?ここ、一番大事なところ。予算不足で、市長・知事の責任が果たせるんですか??予算不足で対応できませんとならない保証は別にあるんですか?
府市は「緊急時は補正予算を組む」と説明するでしょう。
しかし、まずは法人内でやりくりが求められますし、緊急時に補正予算組むまでは待てません。命がかかってるときに、お金の心配がないようにするのが行政の責任でしょう。特別枠をつくって積み立てるなど、いくらでも対応はできるはず。
9月27日の大阪市会民生保健委員会では、次のように理事者答弁しています。
●急迫で重大な健康危機事象が発生した場合には、大量に必要となる試薬等については、大阪府市で必要な運営費交付金を措置できるよう制度設計を行ってまいります。
しかし、制度設計、結局、されてないじゃないですか!!
議会の皆さん。市民、府民の命にかかわること。約束が違う!!と質してください。
市民の皆さん。こんなその場しのぎの答弁を許してはなりません。議会に注目を!!