環科研・公衛研まもれ@大阪

橋下維新の大阪市解体(都構想)は許せない!大阪市立 環境科学研究所(環科研)、大阪府立 公衆衛生研究所(公衛研)の統合 · 独法化、反対。メール dokuhou.hantai@gmail.com ツイッター @dokuhou_hantai

大阪府に、5年前の「独法化はなじまない」との報告が存在した

 府立公衆衛生研究所と市立環境科学研究所の統合・独法化のそもそもの間違いは、公衆衛生や健康危機管理にとって組織形態はどうあるべきかという観点からの検討が1回もされずに、トップダウンで「決定」とされたことです。
2012年の決定プロセスについてはこの記事にまとめました
府市統合本部での暴論(「とにかく」「さくっと」統合独法)

驚くべきことに、事前に役所内部の検討会議も、公衆衛生の専門家の意見を聞く場も1回もありません。全国ではじめて衛生研究所を独法化するという大きな方針について、本当にこの府市統合本部会議の「とにかく」「さくっと」という議論しかなかったのです。

 横浜市の中田市長も強引な手法は批判もありましたが、2年かけて、公衆衛生の専門家の意見も聞いて検討しています。

横浜市が「独法化は困難」とした理由を、大阪では検証したのか - 環科研・公衛研守れ@大阪

大阪市会の自民党や公明党が、市民の安全を守るために反対したのは、こういう乱暴な進め方の結果であり、当然なのです。

大阪府でも、2012(H24)年の決定プロセスより前に、実は、公衆衛生の専門家による検討は1度だけされています。平成18年当時の所長による「衛生研究所は独法化はなじまない」との提言です。まったく逆のことが5年前に言われていたとは、実に奇怪です。

大阪府立公衆衛生研究所のホームページには、いまも全文が公表されていますので一部引用します。
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◎厚生科学特別事業報告書「健康危機管理のための地方衛生研究所のあり方(提言)」(平成18年度 PDF)
http://www.iph.pref.osaka.jp/report/report.html
分担研究者
織田 肇 大阪府立公衆衛生研究所 所 長
前田 秀雄 東京都健康安全研究センター 所 長
岡部 信彦 国立感染症研究所感染症情報センター長

地研の担う試験検査業務は、感染症・食中毒事件や食品の違反事例等、地研の試験検査結果に基づき、関係行政部局が公衆衛生上必要な公権力を行使することになる。このことは、地研が公権力行使の基盤を支えていることに他ならず、よって公権力の行使を行う部署と一体であることが不可欠である。
さらに地研は将来の健康危機管理に備えた予見的な研究も実施している。日頃の地道な調査研究が、突発的な健康危機発生時において、医療や原因究明に大きな役割を果たしている。従って、地研の検査・研究のレベルは、行政処分や風評被害の防止等の根拠として高いレベルが要求される。こうした信頼性のある検査・分析を行うには、採算性の優先よりも確実性・信頼性が求められ、住民の安全・安心に寄与するために日常的に危機管理意識を持って予見的な研究を行うことが必要である。これらは健康被害が生じてからの対応では遅い。
以上のように、住民の重大な「健康危機管理」に関わる業務であるので、直接行政の責任において実施すべき業務であり、独立行政法人化には馴染まないと考えられる。このことに関しては平成16年10月に開催された第55回地研全国協議会総会の席上、意見の一致を見たところである。
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この報告書は、厚労省の研究班として、公衛研の所長が代表研究者となっています。「健康危機管理のための地方衛生研究所のあり方」として、保健所との連携強化や、疫学調査に研究所が積極的に関与していくための組織強化策など、今でも活かされるべき提言ではないでしょうか。この一環で、独法化はなじまないということを明確にしています。
しかも、この考え方は、全国の研究所の共通認識です。
同じ大阪府が、なぜ独法化を推進するのでしょうか?
前述の府市統合本部会議ではまったく触れられた形跡はありません。まるでなかったかのようです。しかし、正式な報告書として、いまだに府のホームページに公表されているのです。まじめな検討が一度でもあれば、この平成18年当時の提言と比較し、独法化のメリットとデメリットを整理して検討することもできたはずです。

現在の公衛研の山本所長は、統合・独法化の責任者と任命を受けているようですが、研究所の機能についてどう考えているのでしょうか。「住民の重大な「健康危機管理」に関わる業務であるので、直接行政の責任において実施すべき業務」という提言にある業務ではないのでしょうか。
実はこの山本所長(山本容三氏)は、2011年(H23)8月に大阪大学から大阪府に招かれましたが、当時の橋下知事の意向だったと言われています。11月の市長選挙後をにらんで、統合・独法化を進めるために、あえて専門外の外部学者を招いたとも推測できます。
※地下鉄やバスの民営化や、学校での公募校長、公募区長の問題と重なります。同じような問題がいろいろありそうですが、それはまた別記事で。

そしてその後、公衆衛生の実務に従事したことのない山本氏が、府市統合本部会議で、研究所の代表として参加し、あっさりと「決定」となってしまいます。前任の所長の提言にも触れず、独法化のメリット・デメリットの検証もなしに。山本所長からは、そのような地衛研の機能について提起もされていません。
まさに、橋下知事や、上山信一氏には、都合のよい所長だったのではないでしょうか。
これが外部からトップをすげかえて、単に「2つあるのは無駄」、現場の反対は「抵抗勢力」と切って捨てる彼らの手法でした。
彼らは、健康危機管理の機能強化のために何が必要か、という考えはありません。問題があれば「後で現場に責任を取らせたらいい」としか思っていないのです。
しかし、住民の命や安全にかかわることは、いちど機能が弱体化したら、取り戻しは困難です。

統合・独法化が本当に研究所の機能強化になるならば、公衆衛生の専門家や、他府県の研究所も、歓迎するでしょう。現実は、そんな声は一つもありません。
1月13日読売「論点」でも、関西大学の高鳥毛教授は「感染症対策、第一線の強化を」として、大阪の統合・独法化にも触れ、地方衛生研究所の弱体化に警鐘をならしています。大阪の独法化を懸念し、感染症対策は国の責任で一律に体制強化すべきと提言しています。これが公衆衛生の専門家の実感でしょう。
https://twitter.com/dokuhou_hantai/status/690755880007041026

大阪市会は、市民の安全を守るため、この高鳥毛教授や、他府県の地衛研の所長、大阪府の平成18年当時の検討メンバーにも参考意見を求めるべきではないでしょうか。