環科研・公衛研まもれ@大阪

橋下維新の大阪市解体(都構想)は許せない!大阪市立 環境科学研究所(環科研)、大阪府立 公衆衛生研究所(公衛研)の統合 · 独法化、反対。メール dokuhou.hantai@gmail.com ツイッター @dokuhou_hantai

大阪府が「感染症予防計画」を改定中(環境科学研究所の役割も明確化)。統合・独立行政法人化こそ「修正」が必要

現在、大阪府では、「感染症予防計画」の改定を進めています(パブリックコメントは終了)。

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大阪府/「大阪府感染症予防計画」の改定に対する府民意見等の募集について

「感染症予防計画」とは、感染症法第10条に基づき、都道府県が策定する法定計画です(大阪市や堺市の感染症対策の基本にもなる広域計画です)。

今回の改定は、ブログでも紹介してきた平成28年4月の法改正などを踏まえた改定となっています。

この感染症法改正では、感染症対策の強化のために、都道府県知事(保健所設置市を含む)の検体採取、検査と国への報告を責務として明確化したものでした。これは、衛生研究所を独立行政法人化する大阪の方針は再検討すべき理由になります。

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2016年4月感染症法改正について―環科研の統合案(独立行政法人化)は、法改正の意義を理解し、機能強化のための見直しを ※調氏に参考人の意見聴取を要望したい - 環科研・公衛研守れ@大阪

2月22日の大阪市会でも、自民党・西川議員がその点を示して反対討論をしています。

本日(2月22日)、大阪市 議会 委員会。採決保留。自民・西川市議の反対討論 支持します! - 環科研・公衛研守れ@大阪

 

1.「改定案の概要」では、感染症法改正に踏まえた改正ポイントが示された。

さて、今回の改定案は、以下のホームページで確認できますが、「府立公衆衛生研究所」と「市立環境科学研究所」の統合・独立行政法人化は、まったく不要であり、むしろ独立行政法人化してはならないことが明確になったものと言えます。

 「改正案の概要」では、以下の点がポイントです。

・従来は記載がなかった、保健行政機関 (府及び保健所設置市、保健所、市町村、地方衛生研究所など)、府民等の役割の明確化と連携強化、感染症の技術的・専門的な機関である地方衛生研究所の位置付けについて明記 <P4~7>
・患者等が検体採取の求めに応じないときは措置(行政処分)を講じるなど、平成28年4月施行の感染症法第15条等に基づき、検体の採取体制を強化 <P15>
・従来は記載がなかった、結核やHIV・性感染症、麻しん・風しん、蚊媒介感染症、新型インフルエンザ等対策など、特定感染症に係る府独自の計画や施策に関する考え方について掲載 <P27~28>

その中で、地方衛生研究所がどのように位置づけられたのか、個別に見ていきます。 

 

2.大阪市の環境科学研究所の役割を明確化(統合・独法化はデメリットだけ)

(改正ポイント①)----------------------------------------------------------------------
第二 実施機関等の役割
Ⅰ 保健行政機関の役割

 1 本府及び保健所設置市の役割

(2) 保健所については地域における感染症対策の中核的機関として、また、地方衛生研究所(府内においては、「大阪府立公衆衛生研究所、大阪市立環境科学研究所、堺市衛生研究所、東大阪市立環境衛生検査センター」をいう。)については、感染症の技術的かつ専門的な機関として明確に位置付けるとともに、それぞれの役割が十分に果たされるよう、人員の確保や予算措置などに努める。
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赤字部分が、追加された部分です(以下同じ)。つまり、大阪府と、大阪市は、地方衛生研究所について「感染症の技術的かつ専門的な機関として明確に位置付ける」とし、「それぞれの役割が十分に果たされるよう」、人員の確保や予算措置などの機能強化を求めています。
この記載は、明らかに今回の感染症法改正と地方衛生研究所の法的位置づけの明確化を踏まえたものです。
大阪市における感染症の検査は、大阪市長の責務です。衛生研究所の「経営形態」は明記されていませんが、大阪市の機関として明確に位置付け、「それぞれの役割」の強化を計画に位置付けるのであれば、いま、統合し、自治体から切り離してしまう理由はありません。

また、過去記事で言い忘れてましたが・・感染症法改正の図(上記)で示される通り、地方衛生研究所から国への検体送付、検査結果の報告となりますが、これは「都道府県・政令市」の責務であって、法人化された研究所の事務と法的には言えません。法人が直接に国に送付を行う法的根拠はないため、委託契約書などの別の規定を設ける必要があり、迅速な連携にとってはマイナスです。

吉村市長は、「大阪市の公衆衛生の機能強化のために統合」と言います。しかし、いま吉村市長に求められているのは、この感染症予防計画改定に踏まえ、いまの環境科学研究所の欠員状態を解消し、必要な予算措置を行うことです。それをしないのであれば、機能強化など語る資格はありません。


(改正ポイント②)----------------------------------------------------------------------
4 地方衛生研究所及び地方感染症情報センターの役割

(1)地方衛生研究所
 地方衛生研究所は、患者への良質かつ適切な医療の提供のために、感染症対策の技術的・専門的な実施機関として不可欠な存在である。感染症の発生状況を正確に把握するためには、遺伝子情報、薬剤耐性等の収集・解析が必要不可欠となってきている。多様な感染症に対する有効かつ的確な予防対策を図るために各保健所からの検査に応じることができる体制を構築する。
 また、感染症法の改正に伴い、感染症法で得られた検体については保健所との連携のもと、正確かつ迅速な検査を実施する。そのため、検査能力の向上につながる研究や、先進的な研究を行う必要のあるMERS(中東呼吸器症候群)等の新興感染症の試験検査を充実する。<感染症法第15条>
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 保健所(大阪市保健所)からの検査に正確かつ迅速な検査を実施すること等が、環境科学研究所に求められます。すでに指摘してきたように、研究所が広域所管と位置づけられる統合・独法化によって、以下の5点のリスクがあります。

2016年4月感染症法改正について―環科研の統合案(独立行政法人化)は、法改正の意義を理解し、機能強化のための見直しを ※調氏に参考人の意見聴取を要望したい - 環科研・公衛研守れ@大阪

①検査業務は、やればやるほど赤字になるもので、「自由な裁量」で効率的な業務を行う独立行政法人では、検査のリストラ、非正規化が進み危機管理の機能低下になる。

②感染症の検査は、国庫補助事業であるため、大阪市から法人への委託契約によって依頼することになる。しかし、大阪市が新法人に検査を委託する行政計画や協定などの担保はないため、部分的に民間検査機関に外注が進み、機能低下になる。

③新型インフルエンザ等の健康危機対応では、大量の検体を衛生研究所でさばいていくことになるが、検査試薬の費用、休日出勤等の人件費の確保は、限られた運営交付金の枠内では法人経営を圧迫する。直営でのスケールメリットがなくなる。

④感染症の疫学調査は、保健所と研究所が一体となって検査・調査を行うもの。保健所の疫学情報(だれが、だれと接触してきたか等)をあわせて解析が必要だが、行政から切り離されれば、疫学情報の共有は委託契約の範囲内に縛られ、迅速な対応に支障が生じる。

⑤研究所が広域所管と位置づけられるため、大阪市保健所の検査依頼について迅速に検査することは求められない(大阪市エゴではだめだが、政令市としての機能低下には違いありません)。

さらに、吉村市長が上程した「修正案」では、環境科学研究所の「環境」と「衛生」を分断するため、人員のスケールメリットも失われ、共同使用してきた機器が使えなくなるなどの問題が生じます。

大阪市立環境科学研究所を、「衛生」と「環境」に分離したらできなくなる実例3つ - 環科研・公衛研守れ@大阪


これらのデメリットを上回る、統合・独法化の「メリット」は考えられません。感染症予防計画に反する統合・独法化は見直しが必要です。


(改正ポイント③)----------------------------------------------------------------------

(2)感染症情報センター
 府等は、地方衛生研究所等に、地方感染症情報センターを設置する。(保健所設置市においては、保健所など本庁内に設置することも可能とする。)
 地方感染症情報センターは、患者情報、疑似症情報及び病原体情報を収集・分析し、府等(センター所管団体の本庁)に報告するとともに、全国情報と併せて、これらを速やかに医師会等の関係機関に提供・公開することとしている。
 本府は、保健所設置市と協議の上、大阪府立公衆衛生研究所内に設置する地方感染症情報センターを「基幹地方感染症情報センター」として整備し、大阪府全域の患者情報、疑似症情報及び病原体情報を収集、分析し、その結果を各地方感染症情報センターに送付するものとする。なお、保健所設置市に設置する地方感染症情報センターは、基幹感染症情報センターの運営に関し協力するものとする。
 地方衛生研究所を保有していない保健所設置市においては、地方衛生研究所との委託契約などより病原体の検索などを行うこととする。
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大阪市の感染症情報センターは、これまでどおり大阪市保健所に残ることになります。統合された法人は、「基幹地方感染症情報センター」として府内情報を集約しながら、大阪市分だけ別に切り分けて、大阪市に報告しなければならない非効率を抱えることになります。

衛生研究所の統合で、どうなるのかまだまだ検討は不十分(感染症情報センターはどうなる?) - 環科研・公衛研守れ@大阪

これまで明確ではなかった「地方衛生研究所を保有していない保健所設置市においては、地方衛生研究所との委託契約などより病原体の検索などを行う」ということが盛り込まれたのは広域機能の強化の点で前進です。しかし、「委託契約などにより」とされているため、他の民間機関への委託に流れる問題を残しています。本当に大阪府が広域機能の強化を図りたいのであれば、このような曖昧な表現ではなく、保健所設置市と協議して明確化すべきでしょう。

 

(改正ポイント④)----------------------------------------------------------------------
2 積極的疫学調査
調査の実施にあたって、府等は、地方衛生研究所、動物衛生部門、保健所等と密接な連携を図り、必要に応じて国立感染症研究所、国立研究開発法人国立国際医療研究センター、他の都道府県等の協力を求め、個別の事例に応じた適切な判断を行うとともに、地域における流行状況把握並びに感染源及び感染経路の究明を迅速に進める。また、他の都道府県等から協力の求めがあった場合は必要な支援を積極的に行う。
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この項目は、修正部分はありませんが、下線については注目です。
感染源及び感染経路の究明について、他の都道府県等から協力の求めがあった場合は必要な支援を行うとしていますが、「誰が」行うんでしょうか。
地方衛生研究所では、保健所と連携して、感染源等の究明に当たりますが、この積極的疫学調査の応援にあたれる権限を持つのは「職員」に限られます。

感染症法第15条
6 都道府県知事は、第一項の規定を実施するため特に必要があると認めるときは、他の都道府県知事又は厚生労働大臣に感染症の治療の方法の研究、病原体等の検査その他の感染症に関する試験研究又は検査を行っている機関の職員の派遣その他同項の規定による質問又は必要な調査を実施するため必要な協力を求めることができる。

地方衛生研究所を法人化して、職員を非公務員化すれば、他の都道府県からの協力に応じることはできなくなります。このことは考えられているんでしょうか。

 

3.感染症予防計画は、法人化された研究所の機能を担保する計画になっているか

ここまで見てきて、統合・独法化は、感染症予防計画にも反するものであることは明らかですが、それでも大阪府市は「逆に計画で地方衛生研究所を位置付けたのだから、法人化しても業務を継続する担保になっている」と強弁するかもしれません。
そうは言えません。計画での位置づけは抽象的なものに過ぎず、個別の対策において地方衛生研究所に検査を依頼する担保はありません。

個別の感染症対策(特定感染症予防指針で示されたもの)について、新たに記載がされていますが、その中で地方衛生研究所への検査依頼、調査研究はまったく記載がされていないのです。
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Ⅳ 特定感染症予防指針等に定められた疾患への対応
○ 結核対策
○ HIV・性感染症対策
○ 麻しん対策
○ 風しん対策
○ 蚊媒介感染症対策
○ 新型インフルエンザ等対策
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この中では、HIV対策における地方衛生研究所の果たしてきた役割と、独法化して業務継続される担保がないことを記事にしてきました。

衛生研究所の統合は、まだまだ検討は不十分(2)(HIV検査・研究はどうなる?) - 環科研・公衛研守れ@大阪

ここで指摘した問題は、今回の感染症予防計画改定でも何も変わっていません。

麻しん(はしか)対策についても、「検体採取による確定診断への協力、保健所による積極的疫学調査などを行う」とありますが、現在、研究所で行っている遺伝子解析や感染経路究明などが位置付けられていません。

蚊媒介感染症対策については、ジカ熱問題で話題ですが、「平時の媒介蚊防除対策及び国内発生時の推定感染地における蚊の駆除等の対策を行う」とあるのみで、現在、保健所と研究所で行っている「蚊のウイルス保有サーベイランス」が位置付けられていません。

いずれも、いまの大阪市の直営の研究所であれば、市の方針として直接に実施することに問題はありませんが、法人化することで切り捨てられるリスクが生じます。

大阪市会の議員の皆さん。この感染症予防計画改定については、大阪市の理事者側から説明はあったでしょうか?法改正、計画改定を踏まえた徹底審議をお願いします。